ストラテジ系
システム戦略 重点教科書
システム戦略は「経営とITをどうつなぐか」を扱う分野です。戦略の立て方、業務の見直し方、外部サービスの使い分け、導入後の評価という一連の流れとして理解すると覚えやすくなります。
1. 情報システム戦略
会社が情報システムを作るとき、「なんとなく便利そうだから」という理由だけで作られることはありません。情報システムは、あくまで経営戦略や事業戦略を実現するための手段として構築されます。つまり、情報システムそのものがゴールなのではなく、「会社をどうしていきたいか」という大きな方針があって、それを実現する道具としてシステムがある、という順番を押さえることが第一歩です。この「経営の目的から逆算してシステムを組み立てる」という考え方全体を情報システム戦略と呼びます。
経営戦略とシステム戦略のつながり
たとえば「新しい地域のお客様を増やしたい」という事業戦略があるなら、それを支えるために「オンラインで商品を探せる仕組みを作る」といった情報システムの方向性が導かれます。社内の情報を横断的に探し出せるようにするエンタープライズサーチ(社内に散らばった文書やデータを一つの窓口でまとめて検索できる仕組み)も、こうした経営目的を支えるための情報システムの一例です。情報システム戦略を考えるときは、常に「このシステムは経営戦略のどの部分を実現するためのものか」という結びつきを意識することが大切です。
戦略目標の立て方
経営戦略や事業戦略は、思いつきで決めるものではなく、会社を取り巻く環境をきちんと分析したうえで、具体的な目標として設定されます。その代表的な分析手法がSWOT分析で、自社の「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」と、外部環境の「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の4つの視点から現状を整理する方法です。この分析を通じて、初めて「では情報システムで何を実現すべきか」という具体的な戦略目標が見えてきます。
EA・SoR・SoEーシステム全体を捉える視点
会社の情報システムは、部署ごとにバラバラに作られてしまうと、同じようなデータを二重に管理していたり、システム同士がうまく連携できなかったりする問題が起こります。そこで、業務や情報システムを会社全体で統一的に整理し、全体最適の視点で設計しようという考え方がEA(Enterprise Architecture)です。EAは、ビジネスの仕組みからデータ、システム、技術基盤までを一貫した設計図としてとらえ、部分最適の寄せ集めではなく会社全体として無駄のないシステム構成を目指す考え方だと理解しておきましょう。
また、情報システムの性格を分類する考え方として、SoR(Systems of Record)とSoE(Systems of Engagement)という区分もあります。SoRは、受発注や会計処理のように「正確な記録を残す」ことを目的とした、従来型の基幹システムを指します。一方SoEは、SNSやチャットのように顧客や従業員との「つながり・関わり合い」を生み出すことを目的としたシステムを指します。「記録するためのシステムか、つながるためのシステムか」という目的の違いで区別すると覚えやすいでしょう。たとえば会計システムや在庫管理システムはSoRの典型例であり、お客様とのやり取りを積み重ねるチャットサポートやSNSアカウントの運用はSoEの典型例だとイメージすると分かりやすくなります。企業の情報システム戦略では、この2種類のシステムをどちらも適切に組み合わせ、「正確に記録すること」と「関係を築くこと」の両方を実現しようとしている、という視点を持っておくと理解が深まります。
2. 業務プロセス
業務を改善したり問題を解決したりするためには、まず「今、業務がどのように行われているか」を正確に把握する必要があります。感覚だけで「なんとなく非効率そうだ」と判断するのではなく、業務の流れを目に見える形に描き出して分析することが出発点になります。この、ビジネスの仕組みや業務の流れを視覚的に表す作業をモデリングと呼びます。
業務プロセスをモデル化する
モデリングにはいくつかの代表的な表記方法があります。データとデータの間にどんな関係があるかを図にするE-R図(Entity Relationship Diagram)は、たとえば「顧客」と「注文」がどう結びついているかといった、データ同士のつながりを整理するのに使われます。データがどこからどこへ流れていくかを表すDFD(Data Flow Diagram)は、情報の流れそのものに注目した図法です。そして業務の手順や分岐を、決められた記号を使って表現するBPMN(Business Process Model and Notation)は、「誰が」「どんな順番で」作業を行うかという業務フローを描くための国際的な表記法です。3つとも「何を描きたいか」が違う点に注目すると、区別しやすくなります。データの関係を描きたいならE-R図、データの流れを描きたいならDFD、業務の手順を描きたいならBPMN、という具合です。
業務プロセスを見直す
業務の現状をモデル化できたら、次はそれをどう改善していくかという段階に進みます。ここで代表的な考え方がBPR(Business Process Reengineering)とBPM(Business Process Management)です。BPRは、既存の業務のやり方を前提とせず、ゼロから業務プロセスを根本的に作り直す、いわば抜本的な改革です。一方BPMは、一度作った業務プロセスを継続的に見直し、少しずつ改善を積み重ねていく取り組みを指します。「一気に作り直すか、地道に改善し続けるか」という違いで整理しておくとよいでしょう。また、業務における一連の作業の流れそのものを指すワークフローという言葉もあわせて押さえておきましょう。
業務プロセスの分析は、業務フローや先ほどのE-R図などをもとに業務の流れを把握し、表やグラフで示された業務データを読み取ることで、問題点を見つけ出し改善につなげていく作業です。分析力や思考力が求められる場面であり、単に用語を覚えるだけでなく「どこに無駄があるか」を読み解く視点が試験でも問われます。こうした業務改善の具体的な担い手として、あらかじめ決められた定型的なパソコン作業を、ソフトウェアのロボットに代行させるRPA(Robotic Process Automation)があります。人が繰り返し行っていた事務作業をRPAに任せることで、ヒューマンエラーの削減や作業時間の短縮につながります。
システム化による業務効率化
ITを活用して業務改善や効率化を図る方法はひとつではありません。すでに完成されたソフトウェアパッケージを導入する方法、複数人での情報共有やスケジュール管理を助けるグループウェアやオフィスツールを導入する方法、自社の業務に合わせて情報システムを個別に開発・導入する方法、そしてネットワークそのものを構築して情報のやり取りを円滑にする方法など、それぞれに特徴と利点があります。会社の規模や予算、業務の特殊性に応じて、これらを使い分けることが重要です。
働き方の面では、社員が個人で所有するスマートフォンやパソコンを業務に利用するBYOD(Bring Your Own Device)が広がっています。会社が機器を用意しなくても済む利便性がある一方で、情報漏えいなどのセキュリティ上の注意も必要です。また、身の回りのさまざまなモノがインターネにつながるIoT(Internet of Things)や、機械同士が人を介さず自動的に通信し合うM2M(Machine to Machine)も、業務効率化を支える技術として押さえておきましょう。実際の活用例としては、出社せずに自宅などで働くテレワークへの取組、AIを使ってお客様の行動や感情を分析する取り組み、AIによってビジネスプロセスそのものを自動化する取り組みなどが挙げられます。
コミュニケーションのためのシステム利用
業務改善や効率化を進めるうえでは、社内外の人と円滑にやり取りするための仕組みも欠かせません。遠隔地にいる人と映像・音声でやり取りするWeb会議、文書でのやり取りに使う電子メール、情報を掲示して共有する電子掲示板、意見や情報を発信するブログ、短文でリアルタイムにやり取りするチャット、携帯電話番号宛てに短文を送るSMS(Short Message Service)、人とのつながりを広げるSNS(Social Networking Service)は、いずれも日常業務で使われるコミュニケーション手段です。
このほか、個人が持つ空き時間やモノ、スキルなどを、インターネットを通じて他者と共有し活用するシェアリングエコノミー、日々の行動や健康状態などの記録を蓄積したライフログ、個人の同意のもとで集めたデータを預かり本人の代わりに管理・活用する情報銀行、個人が自分自身のデータを一元管理できる仕組みであるPDS(Personal Data Store)も、近年のデータ活用の潮流として用語例に挙げられています。日常的な活用例としては、業務における電子メールの利用や、共有ファイルをオンラインにアップロードしてチームで使い回すことなどが典型です。こうしたコミュニケーション手段を適切に使い分けることも、業務プロセスを円滑に回すうえでの重要な要素だといえます。たとえば、緊急性の高い連絡はチャットやSMSで手早く伝え、公式な記録として残したいやり取りは電子メールで行い、部署全体への周知は電子掲示板やグループウェアの掲示機能で行う、というように場面ごとに手段を選ぶことで、情報伝達の抜け漏れを防ぎ、業務全体の効率を高めることができます。
3. ソリューションビジネス
システムを作りたい会社が、必ずしも自社だけですべてを解決できるとは限りません。むしろ多くの場合、専門の企業に相談しながら課題を解決していきます。この、顧客と信頼関係を築きながら顧客が抱える問題点を把握し、その解決策を提案して実現まで支援していくビジネスの形をソリューションビジネスと呼びます。「ソリューション」は英語で「解決策」を意味する言葉で、単に製品を売るのではなく「困りごとを解決する」ことそのものを提供するのが特徴です。システム化を進める際には、こうしたソリューション提供のプロセスに沿って、課題の整理から提案、導入、支援までが進んでいきます。
ソリューションの形態
ソリューションの提供のされ方にはいくつかのパターンがあります。顧客の要望に合わせてシステムの設計から構築、運用までを一括して請け負うSI(System Integration)は、オーダーメイドでシステムを作りたい場合に選ばれる方法です。これに対し、インターネットを通じてコンピュータの機能をサービスとして利用するクラウドコンピューティングは、自社で機器を持たなくても必要な機能をすぐに使い始められる点が魅力です。
クラウドサービスの提供内容による分類
クラウドサービスは「何を提供するか」によって、いくつかの階層に分けられます。ソフトウェアそのものをサービスとして提供するSaaS(Software as a Service)、アプリケーションを開発・実行するための土台を提供するPaaS(Platform as a Service)、サーバやストレージなど計算資源そのものを提供するIaaS(Infrastructure as a Service)、そしてデスクトップ環境そのものをサービスとして提供するDaaS(Desktop as a Service)があります。SaaSは「完成した道具」、PaaSは「道具を作るための作業台」、IaaSは「作業台を置く土地そのもの」というイメージで覚えると、階層の違いがつかみやすくなります。
クラウドサービスの提供形態による分類
提供される中身だけでなく、「誰と共有して使うか」という観点からもクラウドサービスは分類されます。不特定多数の利用者と共有するパブリッククラウド、自社専用に用意されるプライベートクラウド、その両方を組み合わせて使うハイブリッドクラウド、さらに複数のクラウドサービスを目的に応じて使い分けるマルチクラウドがあります。コストを抑えたいならパブリック、セキュリティや独自性を重視するならプライベート、という具合に、目的に応じて選び方が変わってくる点を理解しておきましょう。また、インターネット経由でアプリケーションソフトの機能を利用者に提供する事業者を指すASP(Application Service Provider)という言葉もあわせて押さえておきましょう。
アウトソーシングとその他の形態
情報システムに関する業務そのものを外部の専門会社に委託するアウトソーシングも、代表的なソリューションの形態のひとつです。似た言葉として、自社のサーバをレンタルサーバとして貸し出すホスティングサービス、逆に利用者が用意した機器を預かり設置スペースや電源、回線などを提供するハウジングサービスがあります。ホスティングは「機器そのものを借りる」、ハウジングは「置き場所を借りる」という違いで区別すると分かりやすいでしょう。
これらの外部サービスに対して、システムを自社の設備内で保有し運用する従来型のやり方をオンプレミスと呼びます。クラウドやアウトソーシングが広がった今だからこそ、「自社で持つか、外部に任せるか」という対比の言葉として出題されやすいので覚えておきましょう。また、システムの運用・保守を専門業者が代行してくれるマネージドサービスも、システムの維持管理を外部の力に頼る代表的な方法です。ソリューションビジネスを選ぶ場面では、「自社の強みに集中したい業務は外部に任せ、競争力の源泉となる独自性の高い業務は自社で持ち続ける」というように、コストだけでなく経営戦略上の重要度も踏まえて、SI・クラウド・アウトソーシング・オンプレミスのどれを選ぶかを判断することが求められます。
4. システム活用促進・評価
せっかく良い情報システムを導入しても、社員がうまく使いこなせなければ意味がありません。そこでシステム戦略の最後の段階として、システムを実際に業務で活用してもらうための取り組みと、導入した後にその効果をきちんと検証する取り組みが重要になります。
デジタルリテラシーと普及啓発
事業活動や日々の業務を行ううえで、コンピュータやアプリケーションソフトウェアといったデジタル技術を理解し、効果的に使いこなす能力のことをデジタルリテラシーと呼びます。このデジタルリテラシーを社員一人ひとりに身につけてもらうためには、教育や研修といった普及啓発の活動が欠かせません。
普及啓発を進めるうえでの工夫として、ゲームの要素(得点やランキング、達成度の表示など)を業務や学習に取り入れ、楽しみながら継続的な取り組みを促すゲーミフィケーションという手法があります。一方で、パソコンやインターネットを使いこなせる人と、そうでない人との間に生じる情報格差のことをデジタルディバイドと呼びます。デジタル化を進めれば進めるほど、この格差にも配慮した普及啓発の工夫が必要になる、という点は覚えておきたいポイントです。
情報システム利用実態の評価・検証
システムは「導入して終わり」ではありません。実際にどれくらい役に立っているかを、継続的に評価し検証することが重要です。投資した金額に対してどれだけの効果が得られたかを分析する費用対効果分析、システムを維持していくためにかかり続けるメンテナンスコスト、実際にシステムを使っている人たちがどれくらい満足しているかを調べる利用者満足度調査などを通じて、情報システムの利用実態を客観的な数字で確認していきます。「感覚で良し悪しを判断しない」という姿勢が、この分野全体に共通する考え方だといえるでしょう。
レガシーシステムの廃棄・刷新とシステムライフサイクル
どんなに優れたシステムも、時代とともに古くなっていきます。情報システムが企画され、開発・導入されてから、実際に使われ、やがて役目を終えて廃棄されるまでの一連の流れをシステムライフサイクルと呼びます。長年使い続けられ、時代の変化についていけなくなり、安全性や効率性が低下してしまった古いシステムのことをレガシーシステムと呼びます。レガシーシステムをそのまま使い続けることは、セキュリティ上のリスクを高めるだけでなく、新しい技術との連携を難しくする原因にもなります。そのため、評価・検証の結果をふまえて、こうしたレガシーシステムを計画的に廃棄・刷新していく意義を理解しておくことが、システム戦略の締めくくりとして問われます。第1章の情報システム戦略から始まり、第2章の業務プロセスの見直し、第3章のソリューションの選択、そして第4章の活用促進・評価という一連の流れを経て、また新しい戦略目標に向けたシステム戦略の検討に戻っていく——この循環こそが、システム戦略という分野全体が捉えている大きな考え方です。
本番での解き方
- ✓SaaS・PaaS・IaaS・DaaSは「何を借りるか」で区別する(ソフトか、開発基盤か、インフラか、デスクトップ環境か)
- ✓BPRとBPMは「抜本的に作り直す」か「継続的に改善する」かで判別する
- ✓E-R図・DFD・BPMNは「何を描く図か」(データの関係/データの流れ/業務の手順)で見分ける
- ✓オンプレミスとクラウド、ホスティングとハウジングなど、対になる用語はセットで覚える
- ✓システム活用促進・評価の分野は「導入して終わりではなく、教育し、評価し、古くなれば刷新する」という一連の流れとして押さえる